【地元に帰ろう】
私には故郷(ふるさと)が無い。
戸籍の上では佐賀だけど生まれ育った記憶は一切無い。
母親が里帰り出産をしたので、その場所が本籍地になっただけだ。
父は転勤の多いサラリーマンで、一緒についていくことになったから
幼なじみとか長い友達も居ない。生まれ育った場所が無いのだ。
年末になると帰省ラッシュのニュースが流れるけど、
私にとって帰れる場所がある人が羨ましく思える。
今だから言えることだけど、
写真のワークショップ(安達ロベルトゼミ)で、
自身の原風景を問われた時は正直、困った。
自らのルーツと呼べる場所が無いからだ。
どんなに思い出そうとしても白い、白い光景が心に浮かぶ。
それはノイズのように白い粒でできた光景だ。
かろうじて見えてくるのは団地のベランダ。
団地。昭和40〜50年代に建てられた、ねずみ色の建物。
ベランダにはペンキが剥がれ錆びついた柵。
近くに公園が無かったから、ベランダは幼い頃の遊び場だった。
白いのは真っ昼間だからだと思う。
でも、そこは故郷ではないから、縁のある人は居ない。
だから私は故郷を持つこと、そして
自分を知る人がそこに居ることが、とてつもなく羨ましくなる。
地元に帰ろう。故郷がある人は、地元がある人は
時間を見つけて帰って欲しいと思う。